中村裕太 / YUTA Nakamura
山口義順 / YOSHIKAZU yamaguchi
2007年結成 / 京都
(いおりてん) は、2007年から主に関西の山登りのフィールドワークを開始。公での発表は今回が初めて。
作品名 : 転ばぬ向うの杖
私たちはこれまでのフィールドワークのなかで「山」をモチーフとし、「山へ登る」という行為を通じて、山そのものとは何であるのかをとらえることを試みてきました。そのような活動を通じて、私たちが認識している山の輪郭とはどのようなものであり、またその境はどこにあるのかを探索してきました*1。
たとえば、里山においては「背戸」というものが、住居の裏口と山との境であり、登山道に立てられた看板や地図にマッピングされたルートがその輪郭にあたります*2。ただし山との境とはそのような物理的な境界として、もしくは「森が深くなる、ふもとの建物が小さくみえる」といった場の移行としてだけではなく、より感性的な経験としても認識しているように思えます。つまり「山に入った」という実感は個人の感覚に基づいており、山を登るという行為によってより強く意識されます。
そこで本作においては、山との境界を認識する行為として「枝を拾い、そのものを杖として使用する」という身振りに目を向けたいと思います。杖というものは山を登るうえで、欠かすことの出来ない「道具」の一つであり、枝という山のカケラを杖として使用することは、そのものの意味と価値を転用することでもあります。そのため山のなかで「杖をつく」という身振りは、体を支える脚として用いること以外にも、いくつかの行為を想定することができます*3。このように道具としての杖を、山との境をより具現化するための「指標」として用いることが本作の目的にあります。
*1_ グループ名である「」(いおりてん) は、能の謡本や連歌などの始めなどに置かれる約物のひとつであり、現代文の鉤括弧の元となったとされています。山が連なった形態であり、境界を表す記号として用いられます。
*2_ 本展覧会のエリアは六甲山系のなかに位置しているため、山との出入口がいくつも存在する特異な空間として認識しています。
*3_ 現段階では下記のような杖を使用した行為を想定しています。
地面に線を引く / 引っかけて、ものを干す / 穴を掘る / 日時計をつくる / 道のりを測る / 天秤のように量る / ふもとから氷を運ぶ / 喉が渇いたのでダウンジングする / 遠くへ投げる / いい場所に目印をする / 無事を祈る